[借金問題] 通商産業省の賄賂事件

建築
昭和
43

主文

被告人甲及び同丙をそれぞれ懲役2年に,被告人乙を懲役1年6月に処する。
被告人甲に対し,未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から,被告人乙に対し3年間,被告人丙に対し4年間,それぞれその刑の執行を猶予する。
被告人甲から金2187万0136円を追徴する。

理由

(犯罪事実)
 被告人甲は,平成8年5月1日から平成10年6月30日までの間,通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全企画審査課安全審査官として,実用発電用原子力施設の安全審査等に関する職務に,同年7月1日から平成13年1月5日までの間,衆議院事務局調査局科学技術調査室調査員として,衆議院科学技術委員会等の所管に属する事項の調査等に関する職務に,同年1月6日から経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院新型炉等規制課審査班長兼原子力施設検査官として,研究開発段階にある発電用原子炉(以下「新型炉」という。)の設置変更許可申請に関する安全審査及び原子炉施設の検査等に関する職務に従事していたもの,被告人乙は,ガラス繊維ダクトの製造加工,販売等を業とする甲及びコンピューターによる図面の情報処理システム(以下「CAD化」という。)の企画,開発等を業とするBの代表取締役ないし取締役であり,被告人丙と共に,海水淡水化装置の販売等を業とするCを実質的に経営していたもの,被告人丙は,浚渫残土のリサイクルプラントの建設工事等を業とするD及び産業廃棄物のリサイクルに関する研究開発等を業とするEの代表取締役であり,被告人乙と共に上記Cを実質的に経営していたものであるが,
第1 被告人甲は,上記各会社の事業に関し,原子力発電事業の下請業者や原子力関係法人等における,CAD化のニーズ,海水淡水化装置のニーズ,各種工事の進捗状況及び各種事業等に関する各種情報の提供等の便宜な取り計らいを受けたことなどの謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,
1 上記乙から,別紙一覧表1番号1ないし94記載のとおり,平成10年5月28日から平成11年7月13日までの間,前後94回にわたり,静岡県駿東郡清水町所在のG信用金庫清水町支店等から,東京都港区所在のH銀行虎ノ門支店に開設された自己名義の普通預金口座に合計1141万3285円の振込送金を受け,もって,自己の職務に関し,合計1141万3285円の賄賂を収受した。
2 上記乙及び上記丙の両名から,別紙一覧表1番号95ないし116記載のとおり,平成11年8月13日から平成12年12月29日までの間,前後22回にわたり,静岡県田方郡伊豆長岡町所在のI銀行伊豆長岡支店順天堂病院出張所等から,上記自己名義の普通預金口座に合計139万8000円の振込送金を受け,自己の金融会社等への弁済のため,別紙一覧表2番号1ないし298記載のとおり,平成11年10月1日から平成12年12月29日までの間,前後298回にわたり,同町所在のJ信用金庫長岡中央支店等から,東京都渋谷区所在のH銀行渋谷東口支店に開設されたL名義の普通預金口座等に合計454万7003円を振込送金させて同額相当の財産上の利益を受け,もって,自己の職務に関し,合計594万5003円の賄賂を収受した。
3 上記丙から,別紙一覧表1番号117ないし135記載のとおり,平成13年1月31日から平成14年1月31日までの間,前後19回にわたり,静岡県沼津市所在のI本店営業部かぬき出張所等から,上記自己名義の普通預金口座に合計244万8000円の振込送金を受け,自己の金融会社等への弁済のため,別紙一覧表2番号299ないし448記載のとおり,平成13年1月31日から同年8月31日までの間,前後150回にわたり,上記I本店営業部かぬき出張所等から,東京都港区所在のM銀行日比谷支店に開設されたN名義の普通預金口座等に合計206万3848円を振込送金させて同額相当の財産上の利益を受け,もって,自己の職務に関し,合計451万1848円の賄賂を収受した。
第2 被告人乙及び被告人丙は,共謀の上,上記甲に対し,上記第1記載の趣旨のもとに,別紙一覧表1番号97ないし116記載のとおり,平成11年8月25日から平成12年12月29日までの間,前後20回にわたり,静岡県田方郡伊豆長岡町所在のI伊豆長岡支店役場出張所等から,第1の1記載の甲名義の普通預金口座に合計112万8000円の振込送金をし,同人の金融会社等への弁済のため,別紙一覧表2番号1ないし298記載のとおり,平成11年10月1日から平成12年12月29日までの間,前後298回にわたり,第1の2記載のJ信用金庫長岡中央支店等から,同記載のL名義の普通預金口座等に合計454万7003円の振込送金をして上記甲に対し同額相当の財産上の利益を得させ,もって,上記甲の職務に関して合計567万5003円の賄賂を供与した。
第3 被告人丙は,上記甲に対し,上記第1記載の趣旨のもとに,別紙一覧表1番号117ないし135記載のとおり,平成13年1月31日から平成14年1月31日までの間,前後19回にわたり,第1の3記載のI本店営業部かぬき出張所等から,上記甲名義の普通預金口座に合計244万8000円の振込送金をし,同人の金融会社等への弁済のため,別紙一覧表2番号299ないし448記載のとおり,平成13年1月31日から同年8月31日までの間,前後150回にわたり,第1の3記載のI本店営業部かぬき出張所等から,同記載のN名義の普通預金口座等に合計206万3848円の振込送金をして上記甲に対し同額相当の財産上の利益を得させ,もって,上記甲の職務に関して合計451万1848円の賄賂を供与した。
(量刑の理由)
1 本件は,経済産業省職員であった被告人甲が,通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全企画審査課安全審査官,衆議院事務局調査局科学技術調査室調査員,経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院新型炉等規制課審査班長兼原子力施設検査官の職にあった際,CAD化事業や海水淡水化装置の販売,浚渫残土のリサイクルプラントの建設工事等の事業を軌道にのせようとしていた被告人乙及び同丙から,原子力ないし科学技術関連の情報提供など種々便宜な取り計らいを受けたことの謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,自己名義の銀行口座に合計1525万9285円の振込送金を受け,また,自己の借金の返済のため,消費者金融会社等の銀行預金口座に合計661万0851円の振込送金をさせ,もって自己の職務に関して賄賂を収受し,他方,被告人乙及び同丙は判示の範囲で被告人甲に賄賂を供与したという贈収賄の事案である。
2 被告人甲が本件に至った経緯を見るに,同被告人は,遊興費等を得るために借金を重ね,平成4年には実父の協力を得て債務整理を試みたものの,全てを返済することができず,その後も金利がかさむ一方でさらに借り入れを続けた結果,平成9年ころには毎月の返済額が100万円を超えるまでになってしまい,借金の返済に窮するに至ったことから,平成10年5月下旬ころ,被告人乙に対し,借金返済に困っているから助けて欲しいなどと懇願するとともに,同被告人がCAD化事業を軌道に乗せるべくその受注先をさがしていることなどを了解しつつ,自分に手伝えることがあったら何でも言って欲しいなどと申し向けたものであって,自ら金銭の供与を要求したその経緯は悪質極まりない。
また,被告人甲は,その後も借金の支払いに窮するたびに被告人乙に金員の要求を繰り返して判示第1の1のとおり自己名義の銀行口座に振込送金してもらう一方で,同被告人の要求に応じて,原子炉設置業者や原子力関連施設等におけるCAD化のニーズを調べて情報を提供しただけでなく,原子力施設の安全審査などで面識を有していた業者の担当者を紹介し,時には共に業者を訪問するなど,同被告人にCAD化業務の受注をさせるべく種々の働きかけを行ったものであり,その後同被告人の資金繰りが苦しくなるや,同被告人から紹介された被告人丙に対しても何ら躊躇することなく援助を求め,弁護士を使って借金の一部を整理してもらった上,判示第1の2及び3,判示第2並びに第3のとおり,月々の金融業者等への支払いについては同被告人の経営する会社の従業員に代行させ,それ以外の返済先に
充てる分を被告人甲名義の銀行口座に振込送金してもらいながら,被告人乙及び同丙の要求に応じて,同被告人らが新規事業として軌道にのせようとしていた海水淡水化装置の販売先を開拓するために,職務を通じて知り合った業者等にそのニーズについて調べてもらったり,両被告人と共に業者を訪問したりしたほか,被告人丙が手がけていた浚渫残土に関する事業等のために,原子力発電所やその関連施設の職員に対し,浚渫残土の処理状況や原子力関連施設建設工事の進捗状況を調査してもらったり,下請け業者として参入できるか否かの検討をしてもらうなどしており,さらに,被告人丙が被告人乙と決別してからも,被告人丙が事業化しようとしていた原子力発電所の温排水を使ったエビの養殖など種々の事業計画について同様のことを行っていたものである。
 以上のとおり,被告人甲は,自己の職務に関する様々な事項について便宜供与を図りつつ,賄賂を要求し,これを収受していたものであって,公務員に要求される公正さや廉潔性に対する自覚と倫理観の欠如は甚だしい。
しかも,同被告人は,上述したとおり,長年にわたって原子力関連行政に携わってきたことから,原子力関連事業の関係者に対し有していた大きな影響力を利用して上記便宜供与を繰り返していたものであることに照らすと,本件が,原子力行政に対する国民の不信感を醸成したことは明らかであって,公務員に対する国民の信頼を著しく失墜させた同被告人の責任は重いと言うほかない。その上,同被告人が収受した利益の総額は2187万円余りと高額に及んでおり,その期間も4年近くの長期にわたっていることに鑑みれば,本件は極めて悪質な犯行であって,同被告人の行為は厳しい非難に値する。
3 次に,被告人乙は,被告人甲からの依頼がきっかけで金銭供与を開始したものであるにしても,自己の資金繰りが苦しくなると,被告人甲が借金問題で役所を辞めざるを得なくなったのではこれまでの金銭供与が無駄になると考えて,同被告人を被告人丙に紹介し,同被告人と共謀して賄賂を供与し,判示第2の犯行に至ったものであって,その犯行の動機は極めて自己中心的であり,被告人丙を犯行に巻き込んだ責任も看過し得ない。
他方,被告人丙においても,被告人乙の紹介があったとはいえ,自らの手がける事業に利用しようとの意図をもって被告人甲に接近し,判示第2及び第3の犯行に至ったものであり,その犯行に至った経緯に酌量すべき事情はなく,その後の行動に鑑みると,むしろ公務員の公正さや廉潔性に対する意識の希薄さが窺える。
 そして,被告人乙及び同丙の両名は,被告人甲に対して多数回にわたって金員を供与するとともに上述したような種々の便宜供与を次々と要求していた上,被告人乙が被告人丙と共謀の上供与した賄賂は567万円余りに上り,被告人丙は,さらに単独で451万円余りの賄賂を供与し続け,同被告人が支出した金額は1018万円余りと高額に上っていることに鑑みると,被告人乙及び同丙の責任もまた重いと言わざるを得ない。
4 他方,本件における便宜供与によって,原子力施設の安全審査等が阻害されたことはなく,被告人乙及び同丙が利益を得たこともなかったこと,また,被告人甲は,捜査段階から一貫して本件犯罪事実を認め,当公判廷においても,公務員に対する社会の信頼を傷つけ,職場の人や原子力関連事業の関係者に迷惑をかけたことに対し謝罪の言葉を述べていること,逮捕時まで国家公務員として,とりわけ原子力関係のエキスパートとして21年間にわたり真面目に職務をこなし,周囲の信頼を得て,原子力行政に貢献してきたと窺えること,本件により懲戒免職処分となるなど一定の社会的制裁を受けていること,前科前歴がないことのほか,当公判廷において,同被告人の妻がこれからも家族協力して生活していく旨証言し,仲人をした知人もそれに協力する旨証言していることなど,同被告人のために酌むべき事情も認められる。
 また,被告人乙についても,これまで前科前歴がないことのほか,捜査段階から事実を認め,本件を深く反省し今後は二度とこのようなことのないよう仕事に邁進する旨当公判廷において述べていること,また,同被告人の妻と同僚も同被告人の今後の生活や仕事に協力する旨述べていること,他方,被告人丙についても,当初は否認していたものの,起訴後は事実を認め,当公判廷においても反省の弁を述べていること,同被告人の実姉が今後の更生に協力する旨証言していることなど,被告人乙及び同丙においても酌むべき事情が認められる。
 そこで,これらの事情を総合考慮するに,被告人甲については,同被告人のために酌むべき上記情状を十分考慮に入れても,本件において収受した賄賂が高額に上っていることや,公務員に対する国民の信頼を裏切り,公務に対する信頼を著しく失墜させたことの責任の重さに鑑みると,なお実刑を免れないが,被告人乙及び同丙については,今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑 被告人甲につき懲役3年,金2187万0136円の追徴,被告人乙につき懲役1年6月,被告人丙につき懲役2年)

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